組織がスタッフのファンになるとき

明けまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

2023年も、これまでと変わらないペースでコラムを書いていきたいと思います。

このコラムを書いているのは、1月1日のおおむね正午。飛騨高山の実家の書斎から、ぼんやり薄曇りのアルプス山脈を眺めています。

■立ち戻って考えたい組織の役割
年初のテーマは、ややメタな視点で、本来あるべき組織の本質に戻って、考えてみます。

優れた組織では、人は単に役割に付随する責任を果たすのではなく、それ以上のことをする。

「Dream Work Place」ロブ・ゴーフィ|ガレス・ジョーンズ(英治出版)


最近読んだ本のこの一節に触れ、掘り下げてみたいと思いました。

自分の個性や興味、情熱をはっきりと表明している個人によって、
「顧客体験」を、単なる経済交流の手段から、もっと個人的な交流に昇華させている。

同書より


ここに書かれているのは、
「組織のありようは、個人の情熱のありようによって可変がきくものだ」と、いうメッセージです。

例えば、
自分の裁量で、困っているお客様に寄り添う店頭スタッフ
自分の店舗では提供できないが、それを提供できるライバル店を紹介する店長
お客の家族のことをいつも話題にしてくれる、行きつけレストランのスタッフ

こうした顧客体験を、誰しも何度かは経験しているのではないでしょうか。
その体験をしたとき、私たちは、スタッフのみならず、そんなスタッフを育てているお店や組織にも、強くポジティブな印象を抱くでしょう。

■私が覚えている、最も古い「顧客体験以上の体験」の記憶
私が覚えている、最も古い「顧客体験以上」の記憶は、小学校低学年のときのものです。

当時、地元には、映画館が2つありました。
私がその頃、心から楽しみにしていたロードショウがあり、妹、2人のいとこと一緒に、子供だけ4人で、お金を握りしめ、映画館に歩いてたどり着きました。
チケット販売窓口で、その映画のタイトルを伝えると、そこにいた若い女性のスタッフが、少し困った顔をしたのです。
「その映画、ここじゃ上映していないの。もうひとつの映画館でやっているの」と。
途方にくれる小学生4人を見て、そのお姉さんはしばらく「どうしよう」といった様子で、私たちと一緒に困ってくれていました。
そして一瞬後、「ちょっと待ってて」と、窓口から飛び出すと、誰かを呼んで自分の席に座らせ、「もう映画始まっちゃうから、急ごうね」と、なんと自分の車を出してくれたのです。
今思い出せば、あの時「お姉さん」に思えた女性は、きっとまだ20歳そこそこのアルバイトのスタッフだっと思います。
クルマは、軽でした。子供と言えど、4人乗ったらいっぱいになりました。
お姉さんは、「間に合うといいね」とつぶやきながら、もうひとつの映画館に私たちを送り届けてくれました。
それだけでなく、クルマから私たちを下ろすと、チケット販売窓口に走っていき、なにやら事情をスタッフに話しています。
「まだ始まってないって。良かったね。急いで入って」と、笑顔で私たちに別れを告げ、さっとまた車に飛び乗って帰っていったのです。

私はふとした瞬間、このエピソードをよく思い出します。
その映画館はもうずっと昔に閉館になってしまいましたが、今でも地元に帰り、近くを通るたびに、
「あのときのお姉さんは、今も元気にしているだろうか?覚えていないかもしれないけど、せめてちゃんとしたお礼の言葉を伝えたい」と思うのです。

■的外れな施策を打ち続ける組織の特徴

どの企業・組織も、「社員の能力を解き放ちたい」と願っています。
しかし一方で、多くの企業・組織が、
「社員がいったいどんな情熱を持っているか」を知ろうとすらしません。

現場は、現場ごとに特色があります。
そして、現場で働く人たちは、暗黙のうちにその特色を体で理解し、その特色に合わせた対応をしています。
現場をより良くしようとする提案も、勇気のある一部スタッフによって、本部に挙げられるでしょう。
しかし、多くのケースでは、本部がそうした声を「単なるバグ」として、黙殺することが、あったりします。

それぞれの環境で働く人たちの「違い」こそが、職場を成功に導く原動力となる。

同書より


現場の声を黙殺する組織はたいてい、現場がうんざりするような施策を打ちがちです。
どこか的外れで、既視感があり、制約的で、人まね的で、強制的だったり。。。残念ながら、よくあるケースかと思います。

顧客体験を作ろうとすれば、顧客をいちばんよく知る現場の情熱に、耳を傾けてみるべきです。

顧客体験以上の体験ができるとは、同書によれば、
「自分がありのままでいることで、顧客もありのままの自分でいることがえきるようにしている」ということです。

こうした体験ができた顧客というのは、
「自分のことを最もよくわかってくれている人」だと、そのスタッフを認識するでしょう。
それはすでに、そのスタッフのファンになっている、ということです。

■組織が個を解放させるための姿勢
「個の能力を解き放とう」という組織・企業は、実際に何をすれば良いのでしょう。
私なりの回答は、

「組織だって、スタッフのファンになる」ということです。
現場で働くスタッフ一人一人のファンになるのです。もちろん、努力は相応に必要です。

もっと言えば、スタッフのファンになって、スタッフ自身に、顧客体験以上の体験をさせることが必要なのではないでしょうか。

そうすれば、わざわざ大々的に企業スローガンとして掲げなくても、みずからの価値を感じたスタッフは、情熱を解放し、力を解放してくれるのではないでしょうか。
そのスタッフの情熱にもとづく裁量が、顧客をファンに変えるのです。

今この瞬間も生まれている、現場でスタッフと顧客が触れ合う一瞬。
その一瞬に、スタッフ個人の情熱はどれほど発揮されているでしょう。

スタッフのファンになるべく努力をするのも、経営の責任のひとつではないでしょうか。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<今週の箴言>
あまり利口でない人たちは、
一般に自分のおよび得ない事柄については
なんでもけなす。

ラ・ロシュフコー

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